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たった一言

君からその言葉が聞きたかったから


それが僕でない誰かに

向けられることが許せなかったから

 

-宵言葉-

 

 

池田屋の件以降、僕は土方さんから静養を命じられている。
発作が起きる時以外は、動こうと思えば動けるのに、
それすらも許されないことに僕は苛立っていたのかもしれない。

それに僕が動けないその間も、彼が忙しく動き回っていることが、
余計自分の身の不甲斐無さを思い知らされて…

 


「雪村、そうではない。もっと腰を落として」

「はい!こう、ですか。」

「そうだ。お前の剣は素直だな。」

そういって、とっても綺麗に笑った君を見て、息を飲んだ。

剣術の指南をして欲しいと願い出たのは千鶴ちゃんから。
それは、何かあった時の為に自分の身くらい自分で守って、
隊の皆に迷惑をかけないように…って、彼女の思いがあるから。
今までの僕だったら、千鶴ちゃんらしいなって微笑ましく思えるはずなのに、
今の僕には、その心が眩しすぎて、なんだか少し、嫉ましく思う。


それに、剣術の指南役の一君が、いつになく嬉しそうにしてるから。
千鶴ちゃんを可愛がっているのは、皆一緒だけれど。

土方さんも一君を信頼して命じたんだし、千鶴ちゃんも一君を慕っている。

 

(…慕っている?)

 

そうか。
僕が引っかかるのはそこなのかもしれない。

 


(…一君は僕のものなのに。)

 

 

僕じゃない誰かにそんな笑顔、見せないでよ。

僕じゃない誰かに、触れないでよ。

 

君は何も解ってない。

 


君の声が、聞きたい。

 


「有難う御座います、斎藤さん」

「いや、お前との稽古は楽しい。気にするな。」

 

中庭で剣術の稽古をしている二人の声が聞こえて、
胸の奥がチクリと痛んだ。


呼吸が、苦しい。


(いやだなぁ…、こんな時に発作なんて。)

 

「ケホケホッ…っは…」


己の手を汚す紅い血。


もう何も見たくない。

聞きたくない。

 

そうして布団へと伏した僕は、
いつの間にか深い眠りへ落ちていた。

 

----

 

蝋の匂いとチラチラと揺れる灯りに、ゆっくりと意識が戻る。
布団から少し出した指先がキンと冷えた空気に触れれば、
もう既に夜を迎えたことを知る。
ふるりと身を震わせて、己の身体をぎゅ、と抱え込むと、
障子の外に気配を感じた。


「総司…起きているんだろ。」

「…。」

「入るぞ。」

一言告げた君は、障子を開けて僕の部屋に足を踏み入れる。
障子の隙間から差し込んだ月灯りが君を照らす後光みたいだ。


「昼間、何やらお前の気を感じた。」

「ふぅん。」

「何を怒っている。」

「別に、怒ってなんてないよ?」

口端に笑みを浮かべる僕の傍に腰を下ろした君は、
刀を置いて蒼い瞳を僕に向ける。

とても綺麗な瞳。

其れが、僕以外の誰かに向けられていたんだと思ったら、
許せなかった。


「いや、やっぱり怒ってるかも。」

「総司?」

「だって一君、何にもわかってないんだもん。」

「何をだ。」

「楽しそうだったね、昼間。やっぱり年頃のおなごと遊ぶのは楽しい?」

「…。」

「そりゃあそうだよね。剣も握れない男なんかと一緒に居たってつまんないもんね。」

「…。」

「千鶴ちゃんと、仲良くしてればイイじゃない。どうせ僕なんて、あと少しのいの…」

「総司!」


普段は静かな君の蒼い瞳が、複雑な色に揺れて僕を見つめて、
名前を呼ぶと同時に君に掴まれた手は、痛い程で。


「総司、そんなことを口にしてくれるな。俺は…。」

「一君、痛いよ、手。」

「あ…すまない。」

「謝るくらいじゃ、許さない。許さないよ。」


手を離そうとした一君の手を逆に掴み返して引き寄せれば、
僕の胸の中に簡単に納まる君の髪に口付けを落とす。

 

僕以外の誰かを見るなんて、許さない。
僕だけの、一君で居てよ。


もう、永くない命なんだから。


君と居られる時間は、誰にも邪魔させない。

 

いつの間にか灯りの落ちた闇の中、僕は一君を組み敷いた。
跨る様に見下ろせば、悲しみと驚きで僅かに目を見開いた君。


「一君、僕だけを見ててよ。…お願いだから。」

「総司…ッン」


目蓋に口付けを落とし、己の願いを言霊に乗せれば、
名を呼ぶ君の唇を塞いで侵す。

濡れた舌先で綺麗に揃った歯列をなぞり、
顰められた舌先を絡め取れば篭った声が漏れる。
煽られるように深い口付けを贈れば、君の手が僕の頬に添えられる。

「っ…ン、そ…総司。」


僕の名を呼ぶ君の声が、悲しく響いて、身体を離す。
ポタリと君の頬に落ちる雫が、まさか自分のものとは思わなくて。


「総司、俺を信じてくれ。お願いだから。」

「一君…。」


僕の頬を濡らす雫を、君の綺麗な指先が掬ってくれる。
胸が熱く締め付けられて、僕は顔を背けた。


「総司、俺にはお前だけだよ。」

「一君、好き。愛してる。」


言葉にすればただそれだけ。
たったいくつかの言葉だけど、それがとても大切で。
嬉しくて。

ただそれだけで凍った心が溶けていくみたいに。

 


細く白い君の首筋に顔を埋めて、紅い花を散らす。
帯を緩めて襟元を割れば、一層白い肌が曝されて、
熱が集まるのを感じる。

白い肌に咲く紅い蕾に唇を寄せて舌先で撫でる。
もう片方は、指先で転がしていけば、君の口から熱い吐息が漏れた。

「…ッ、ぁ…総司。」

「一君、…可愛い。大好き。」

身体を下へずらせば、僅かに兆した君の熱を指先で弾く。

「…ンッ、っは。」

下帯を取り除いて直に君の熱に指を添えれば、
ヒクリと脈打つ、雄の象徴。

君と僕が、同じ性を持つ証。

それでも僕は、君だけを想っているから。


「君は僕だけのものだよ、一君。」


他の誰かになんて、絶対に渡さない。

 


先走りを滴らせる切っ先を舌先で軽く舐めれば、
甘い吐息を漏らす姿に笑みを浮かべて。
深く喉奥まで君の熱棒を咥え込んで扱くと、
むくりと膨れ上がる。
僕の想いに呼応するかのごとく、君の口から漏れる喘ぎが
僕だけの耳に届くとき、とても安心するんだ。


耐えられなくなった君が、僕の髪を掴むようにする仕草が、
僕を求めてくれていることを物語っていて。


「聞かせてよ。ッン…君の…想いを。」

口淫の合間にそう告げれば、薄っすらと靄のかかる意識の中で
君は必死に言葉を綴って僕をこの世に繋ぎとめる。


「んっ…ぁ、そ…総司。ッ、愛…している。」


「嬉しいよ、一君。」

 

決して君を誰にも渡さない。


「死ぬときは、一緒だよ。」


「…ッン、アッ…総司、もぅ…ッ、ンァッ!」


告げた想いと共に、君から受けた白濁。

 


「総司、俺の最期はお前と共に、と決めている。」

「一君。」

「だから、あまり想い詰めるな。お前を一人にはしない。」

 


僕が居なくなっても、君は生きて幸せになって欲しい…
そう思えるようになるのはいつなんだろう。


今の僕には、やっぱり君に傍に居て欲しいと願うことが止められない。
ただ唯一、君にだけ向ける想いだから。

 


例え天罰が下ろうとも。

 

 

 

 

-------
キリリク333。
まな様よりリク戴きました沖斎裏でしたが…やや温い感じに。
ほんとすいません。
千鶴ちゃんと仲良さそうにしている一君に、
総司は嫉妬していると思うんですよね。


普段は飄々としてて執着なさそうな彼が、
唯一心を乱して求めるものは一君だけなのです。

やや暗めになっちゃったもんで、今度は明るいの書きたいかも。

リク有難う御座いました!
お納め頂ければ幸いです。


2009.02.09
サカキ。


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